10回目のキスの仕方
 シャワーの音が止み、しばらくしてから圭介が出てきた。

「…なんで正座?」
「…き、緊張してて。」
「それはわかるけど。俺が入った後で悪いけど、どうぞ。」
「あ、ありがとうございます!」

 使い勝手はわかっている。ただ、香りが違う。そして気付く。バスタオルとシャンプー、コンディショナーを忘れたこと。

「け、圭介くん!」
「どうした?」
「バスタオルとシャンプー、コンディショナーを忘れてしまいました。」
「バスタオルはその棚の上にあるやつを適当に使って。あと、洗面台の下に春姉が置いていったやつがあったと思うんだけど…。」
「あの、勝手に開けていいんですか?」
「いいよ。俺がそっちに行くわけにはいかないし。」
「っ…ま、まだ脱いでない…です。」
「っ…とりあえず無理。自分でやって。この家の何触っても使っても怒んないから。」
「わ、わかりました。」

 申し訳ない気持ちを抱えながら、そっと洗面台の下を開けた。きちっと並べられている詰め替え用のパックや、歯磨き粉などを見ると、やっぱり圭介はきちんとしているタイプなのだということがわかる。
 ガラッとドアを開け、風呂場に入る。香りが違って、焦る。

「…お風呂…全然リラックスできない…。」

 風呂上がりの圭介の姿がちらつく。髪が濡れていて、いつもと違う姿にドキッとした。それに、スウェット姿も初めて見た。

「…はぁ…。余計なこと、考えちゃだめ…。」


* * *

 誘ったのは紛れもなく自分で、それでいて離したくないと我儘を言ったのも自分だった。それなのに、自分の方が平常心を保てないでいる。

「…ったく呆れる…。」

 触れる指が震えることは間違いがない。ただ、一番の誤算だったのは彼女が怯えてはいないことだった。

「…びびってんのは俺、か。」
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