10回目のキスの仕方
「美海のお父さんはまぁ…多分お母さんに色々取り次いでもらってようやくって感じだから、不信感はなかったみたいだったけど。…温厚な人だよね。」
「…確かに、声を荒げるようなタイプではありませんでした。」
「うん。そんな感じ。静かに穏やかに言葉を発する人って感じで、俺の話にきちんと耳を傾けてくれた。」
「…そう、ですか。」
「だから、聞く気があるんだと思うよ。美海の言葉も。本当はずっと、そう思ってた。」
「……。」

 美海は思わず俯いた。そんな美海に、圭介はそっと言葉を続けた。

「だから、俺は会うのが楽しみだよ。それに…美海はきちんと話せる。」
「…どうして、そう…思うんですか?」
「聞く気がある人に話をすることは、ちゃんとできる人だから。」

 あまりにも迷いなく、そして真っ直ぐにそう言われると本当にできる気がしてくるのだから不思議だ。しかし、思い起こせばいつだってそうだった。少なくとも、圭介が隣にいてくれるようになってからは、ずっと。
 話を聞く気のある人、それはつまり、美海にとっては圭介で、その圭介に対して想いを伝えることはどんな些細なことであってもできた。そしてその一つ一つを受け止めてもらえたことは、自信に繋がった。だからこうして今、実家に戻ろうとしている。

「…圭介くんに敵う日は一生来そうにありません。」
「え、そう?俺、なんだかんだ美海の方が強いって思ってるけど。」
「…強くないですよ。そう見えるんだったら、それは隣に圭介くんがいてくれるからです。」

 美海は静かに圭介の肩にもたれた。その甘えを優しく受け止めてくれることを知っているからできることだ。

「…大丈夫。みんな待ってる。」

 ゆっくり目を閉じた先に浮かぶのは、家族の姿だった。高校を卒業した時には4歳だった弟、空人(ソラト)は6歳になっている。父や母はどんな顔で自分を迎えるのだろう。

「駅には迎えにきてくれるって言ってたよね?」
「はい。お母さんと、弟が。」
「弟は6歳だっけ。来年1年生か。」
「そう、ですね。…もうそんなに大きくなるんですね。」
「男の子の6歳は結構暴れるイメージ。」
「どうでしょう?…そんなに元気な子だったイメージではないのですが。」
「単細胞生物だからね、男は。すぐ変わるよ。」
「…ついていけなかったらどうしよう…私…。」
「代わりに俺が相手をするよ。」

 不安はなくならない。それでも会わなければ何も進めない。前に進むために、戻ってきたのだから。そう思って自分自身を奮い立たせた。
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