10回目のキスの仕方
* * *
自転車置き場に伸びる影が二つ並んでいる。結局2時間は本を読んだ。『もう帰る?』と問われた声に頷き、読んでいた本を返すまではまだよかった。しかし、こうして隣に並ぶと息が詰まりそうなくらいに緊張してしまうし、沈黙は痛い。その沈黙に耐えかねて、美海はどうにか話題を絞り出した。
「…浅井さんは何の本を読んでいたんですか?」
「本というか、写真集。世界の図書館の。」
「世界の図書館…ですか?」
「うん。美しいと謳われる世界の図書館の写真集に興味があって、今日はたまたま誰も読んでいなかったから。」
「…美しい図書館…。」
上手い相槌がうてない自分がもどかしい。自転車の鍵を差し込む二つの音は重なり合うのに、会話がきちんと重なっている感じがしない。また訪れた沈黙の中、二人は自転車にまたがった。ゆっくりと自転車はスピードを上げて進んでいく。
自転車に乗りながら会話をするって難しいと、美海は初めて知った。前後に位置してしまうと話が聞こえにくいし、左右に位置すると車道にはみ出してしまう。結局、自転車で走っている間はほとんど会話をすることはなかった。二人のアパートの自転車置き場に自転車をゆっくり置き、鍵を閉める。
「本、貸すよ。ちょっと待って。」
「…はい。ありがとうございます。」
また返す時に、何かお返しをしなくてはと悩む自分が容易に想像できる。きっと困るんだろうなとも思う。それでも借りたいと思うのは、その本に興味があるからだけでは多分ない。
圭介の部屋の前で待つこと3分。圭介が本を3冊持って出てきた。
「ごめん、手ごろな袋がなくて。このままでも良い?」
「は、はい!もちろんです。」
「じゃあ、これ。」
「っ…。」
本が渡されるその刹那、一瞬だけ、本当に一瞬だけ圭介の指が美海の手に触れた。
「あ、…りがとう、ございます…。」
消え入りそうなくらい小さな声になってしまったのは、顔が熱くなってきたからだった。
自転車置き場に伸びる影が二つ並んでいる。結局2時間は本を読んだ。『もう帰る?』と問われた声に頷き、読んでいた本を返すまではまだよかった。しかし、こうして隣に並ぶと息が詰まりそうなくらいに緊張してしまうし、沈黙は痛い。その沈黙に耐えかねて、美海はどうにか話題を絞り出した。
「…浅井さんは何の本を読んでいたんですか?」
「本というか、写真集。世界の図書館の。」
「世界の図書館…ですか?」
「うん。美しいと謳われる世界の図書館の写真集に興味があって、今日はたまたま誰も読んでいなかったから。」
「…美しい図書館…。」
上手い相槌がうてない自分がもどかしい。自転車の鍵を差し込む二つの音は重なり合うのに、会話がきちんと重なっている感じがしない。また訪れた沈黙の中、二人は自転車にまたがった。ゆっくりと自転車はスピードを上げて進んでいく。
自転車に乗りながら会話をするって難しいと、美海は初めて知った。前後に位置してしまうと話が聞こえにくいし、左右に位置すると車道にはみ出してしまう。結局、自転車で走っている間はほとんど会話をすることはなかった。二人のアパートの自転車置き場に自転車をゆっくり置き、鍵を閉める。
「本、貸すよ。ちょっと待って。」
「…はい。ありがとうございます。」
また返す時に、何かお返しをしなくてはと悩む自分が容易に想像できる。きっと困るんだろうなとも思う。それでも借りたいと思うのは、その本に興味があるからだけでは多分ない。
圭介の部屋の前で待つこと3分。圭介が本を3冊持って出てきた。
「ごめん、手ごろな袋がなくて。このままでも良い?」
「は、はい!もちろんです。」
「じゃあ、これ。」
「っ…。」
本が渡されるその刹那、一瞬だけ、本当に一瞬だけ圭介の指が美海の手に触れた。
「あ、…りがとう、ございます…。」
消え入りそうなくらい小さな声になってしまったのは、顔が熱くなってきたからだった。