10回目のキスの仕方
* * *

「玲菜ー。」
「なによ!」
「…さっきから機嫌悪くね?」
「悪くもなる!」
「なんで?」
「なんでって…あんたが告白されたとか意味わかんないこと言うからでしょ!?」

 晃成の部屋のベッドに横になっていた玲菜は晃成に向かって思い切り漫画を投げつけた。

「ってぇな!お前!」
「あーもう!イライラする!帰る!」
「…待て。」
「え?」

 帰ろうとする玲菜の腕が掴まれた。玲菜の人生の中で、こんなにも低く響いた晃成の声を知らない。おまけに、こんなに腕を強く掴まれたことも、多分ない。

「こう…せい…?」
「お前さ、イライラしてねぇでちゃんと考えた?」
「な…なにを…?」

 ドクンドクンと心臓がうるさい。でも本当は、心臓がうるさいのは今に始まった話じゃなかった。晃成がモテるようになって、何度も告白されているのを噂に聞いて、その度に心臓がうるさくなった。苦しくなった。最初は何で晃成ばっかりと思っていたけれど、多分今はそうじゃない。それだけじゃない。

「なんでイライラしてるかを。」
「なんでって…そりゃ晃成が告白されて…!」
「だから、俺が告白されてイライラするって何なんだって話。」
「意味わかんないじゃん!絶対あたしの方が晃成のこと知ってるし、いつも一緒にいるのにそれを差し置いて告白とか!」
「…お前な…んなじれってぇこと言ってねぇでさ…っとに。」
「え…?」

 突然ぐいと引かれた腕。抱き留められたのはいつの間にか強く逞しくなっていた胸の中。

「嫌ならいつもみたいに物でも投げて突き飛ばせ。」
「っ…。」
「嫌じゃねーなら、…そういうことだよ。」

 そういうことってどういうことだよバカと言ってやりたい気持ちよりも何よりも、『これが落ち着く』という事実が勝る。どうして、いつから、自分はこうなった?
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