10回目のキスの仕方
* * *

「明季ちゃん。」
「ちゃん付けで呼ぶ時は何か企んでるな、洋一。」
「企んでねーよ。さて、問題です。明後日は何の日でしょう。」
「…明後日?2月14日?…キリスト教司祭ウァレンティヌスが処刑された日。」
「っはぁ?誰がそんな博識披露しろって言ったよ?素直にバレンタインデーと言いなさい。」
「はいはい。バレンタインデー。」
「気持ちが込められていません!」
「バレンタインデーという言葉に気持ちを込めろという方が無理。」

 明季の態度はつれない。こんなのはもはや日常茶飯事になっていた。しかし、明季の方は徐々に隣に洋一が並ぶことを容認しつつある。素直になれていないという自覚はある。なりたくてもできないのが本音だ。

「明季。」
「今度は何?」
「バレンタイン、俺はチョコを貰えたりするわけ?」
「…欲しいなら作るけど。」
「へっ?」

 まさかすぎる返事が返ってきて、顔を赤くしたのは洋一の方だった。しかし、よくよく見ると明季の方も耳を真っ赤に染めている。

「つ、作ってくれんの?」
「欲しいならだけど。」
「欲しいに決まってんだろ!」
「わかった。じゃあ作る。食べれないものはある?」
「ありません!」
「食べたいものは?」
「ありません!」
「じゃあ作らない。」
「間違った!何でもいいです明季が作ってくれるものなら何でも。」
「…単純。」
「それくらいしかいいとこねーから。」
「…そんなことは、ないと思うけど。」

 本当は伝えたい感謝の気持ちや、感謝のその先に芽生え始めている感情もあった。ただ、それを今言うには勇気が足りなさすぎる。

「え?」
「…甘えてばっかりの自分から…ちゃんと卒業するから、あと3日だけ待って。」
「…明季?」

 あるだけの勇気を振り絞る。それで言えるところまで言おう。

「…当たり前みたいに隣にいてくれて、ありがとう。」
「…お、おう。」
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