10回目のキスの仕方
「沙樹さんに言われてしまってね。孫がどうだとか、色々。」
「ま…孫、ですか…。」
「美海をあげるなら君に、だけど。でもまだだな。」
「…ははは。そう、ですね。まだ、もらえません。」

 今の自分ではまだ、美海はもらえない。好きでいること、その想いは日に日に強まるばかりで、きっとこのままあり続けるものなのだろうと思う。だが、好きで付き合うことと、結婚し家庭を築くことは全くの別物だろう。

「でも、いつかもらいに伺いますよ。」
「…待ってるよ。まだだめだけど。」
「わかってますって。」
「けいすけくーん!なんのはなし?」
「空人くんが大好きな、美海ちゃんの話。」
「みうちゃん?」
「美海がいつか、圭介くんにとられちゃうんだよ。」
「え、そうなの?そしたらぼく、もうあえないの?」

 空人の大きな瞳が潤みそうになる。圭介は慌てて口を開いた。

「会えるけど、美海ちゃんに一番会うのは俺かな。」
「ずるーい!」
「空人くんのことも好きだけど、美海ちゃんの方がもっと好きだからね。これだけは譲らないよ。」
「あたっくしてやる!えいっ!」
「あ、いてー!」

 いつかきっと、美海の父親に頭を下げに来ることになる。
 その時を遠くするつもりは、全くない。

「圭介くんも意外と言うんだね。」
「…美海さんは特別です。」
「美海は出会うべき人に、ちゃんと出会えたんだね。」

 そう言って再び柔らかく笑う姿は、やっぱり美海と重なって見えた。
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