10回目のキスの仕方
「…どうしたの?」

 背を向けたままに聞こえる声は、いつもと同じように優しい。

「…疲れさせてしまいましたか?」
「え?」

 美海の声のトーンに驚いた圭介は慌てて背後の美海を見つめた。部屋の灯りを暗くした分、美海の表情が見えない。

「…背中を向けられるの、なんだか切ないです。」

 背中を引いた手が少しだけ震えた。前に一緒に眠ったとき、とても幸せな気持ちで眠った。圭介の腕に、ぎゅっと抱きしめてもらった。それが今は、そうじゃない。

「…わがままで、ごめんなさい。」
「…ったく美海は…そうやって俺を試す。」
「た、試す…?」
「案外狭くて焦ってる俺にちゃんと気付いてる?」
「え?」

 ぐるりと変わった圭介の向き。美海がゆっくりと見上げると、圭介の視線が揺らいだ。

「圭介…くん?」

 こつんと重なる額に美海も一瞬目を逸らしたが、吐息が混じりあえば目を合わせざるを得なかった。

「…確かに、背中を向けるのもどうかとは思ったけど。」
「…そうですよ。意地悪です。」
「空人くんにもそう言われたよ。」
「…空人くんに?どうしてですか?」
「美海ちゃんをもらうって言ったから。」
「な…何の話ですかそれ…!」

 圭介の手が美海の頬に触れた。そっとおでこの髪をかき上げられると、そこにキスが落とされた。

「け…圭介くん?」
「誘ったの、美海でしょ?」
「ち、違いますよ!ただ…。」
「ただ?」

 その先を言うことは少し躊躇われた。しかし、圭介に隠し事などできるはずもない。
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