10回目のキスの仕方

講義室での再会

* * *

「ねぇ、美海。」
「なに?明季ちゃん。」
「そういえばさ、浅井サンとはどうなってんの?」
「っ…な、なにをいきなり!」

 美海は一口飲んでいた緑茶を吹き出しそうになった。少しむせて、呼吸が整ったところでもう一度問われる。

「だからー浅井サンの素性はわかったわけ?」
「素性って…。あ、でも大学は同じで学年も同じだよ。科は違うけど。行動科学科だって言ってた。」
「学年同じなの?じゃあ講義被ってるかもじゃん。」
「同じこと、思ったんだけど…いつも前に座るし、講義と講義の間に人を探そうにも人が多すぎて…。」
「未だ見つけられず、か。」

 美海は頷いた。演習タイプの講義であれば、少人数であるために人の認識はしやすい。しかし、聴講タイプは一度に大勢の学生がいるため、その一人一人を認識しにくい。それに美海は前の方に座るため、美海の前にいる学生は少ない。美海の前に座る学生の中には圭介は今のところいない。

「前期は被ってないってことなのかねぇ。」
「…まぁ、被った授業取らなくても、お互いに卒業できちゃうし。」
「んーそれは痛い!」
「痛くは…ないけど。」

 圭介から本を借りて1週間と3日。1冊は読み終わったものの(期待を裏切らない面白さだった)2冊はまだ手もつけていない。図書館でばったり会ってからは一度も顔を合わせていない。大学でも、家でも。

「ていうか同じアパートなのに何でそんなに顔合わせないかなぁ。そもそも浅井サンってバイト何してるの?」
「それは…わかんない。」
「聞きなよ!」
「聞けないよ!」
「なんで?」
「…どういう流れでそういう風に振ればいいのか…わからないんだもん。」
「どういうって…自然に…。」
「…浅井さんの前ではいっぱいいっぱい…で、あんまり頭が…働かない。」

 圭介の前では忙しい。色々なことを考えて、熱さを抑えて、笑って。その一つ一つが上手にできない自分に少しうんざりして。
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