10回目のキスの仕方
「っ…。」

 言葉にならない美海とは対照的に、圭介の方は普通の態度だ。

「越前、声が大きい。」
「悪い悪い。な?浅井はこの講義にいるって。嘘じゃないだろ?」
「ほえー…この人が浅井サン…。」
「え?」
「ああああ明季ちゃん!」

 この場で圭介に唯一面識のない明季が、『浅井』を知っていることは流れとして変だ。それはつまり、美海が明季に全てを話していると暴露しているようなものである。それに気付いて慌てる美海をよそに、圭介は美海の方を向いた。

「本、読み終わった?」
「ま、まだ…ですっ…1、1冊は、終わったんですけど…。」
「そっか。大学でこうして会うの、初めて…だっけ。」
「えっと、はい。」
「あー…そうか。話したことはなかったか。気付いてはいたんだけど。」
「え?」

 気付いていたというのは美海に、ということで合っているのだろうか。聞きたいけれど、聞けない。

「浅井、いつも後ろの方にいるもんな。」
「それはあんたもでしょーが。」
「あ、ばれた?」
「今日はここにする。隣、いい?」
「えっ、あ、はいっ!」

 美海の返事を聞いて、圭介はすっと隣に座った。表情を大して変えずに。美海の方はというと、当然のように頬が熱い。

「ねー洋一。」
「んー?」
「コンビニ行こ。付き合って。」
「ジュース奢って。」
「馬鹿じゃないの!行くよ。」
「へいへーい。」
「明季ちゃ…!」
「…いきなり、何?」

 心拍数が加速する美海を置いて、明季と洋一は講義室を出た。

* * *

「絶対に二人の邪魔をしないこと。わかった?」
「わかった。」
「はぁー…何よー…普通に浅井って人、いい人そうだし美海もあがりながらもちゃんと話してるし。」
「援護射撃した方がいい?」
「だめ!こういうのは部外者立ち入り禁止!」
「らじゃー!」
「当分、見て楽しむことにする!可愛すぎる!」
「…それには同感。俺も見て楽しむ会に入っていい?」
「いいけど、邪魔しないでよ?」
「邪魔しません!」
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