10回目のキスの仕方
* * *

「ふーう、飲んだ飲んだ~。」
「あたしも~!いい感じに酔ったぁ~。美海はだいじょーぶ?」
「わ、私飲んでないもん!」
「そっかぁ。じゃああたしこのすぐそばだから、家。んじゃ、また飲もうね~。」
「明季ちゃん、大丈夫?お家まで行こうか?」
「いらな~い!」
「俺が送るからだいじょーぶ!浅井、松下さんよろしく!」
「うん。…帰ろ。」
「…はい。」

 足取りの怪しい明季の隣を洋一が歩くのを見送って、美海たちも歩き出した。こうして圭介の隣を歩くのは人生で2度目だ。前回は手を引いてもらっていたということを思い出すと、酔いとは恐ろしいと思わざるを得ない。微妙な距離が少しだけ切ないような、それでいて心地良いような不思議な感覚に陥る。

「結局一杯も飲まなかった?」
「えっと、はい。前回が…前回だったので。浅井さんはお酒、結構飲んでましたよね?」
「んー…多分強いんだと思う。」
「はい、そんな感じがしました。」
「…楽しめた?」
「…えっと、最初は緊張したんですけど、でも、楽しめました。ありがとうございます!」

 美海は大きく頭を下げた。頬が熱い。夜風が丁度良いくらいだ。

「越前が突然言い出したから驚いたけど。」
「そうですね。私もびっくりしました。」
「…だけど、行って良かった。松下さんが結構話してるとこ見れたし。」
「えっ!?わ、私、そんなに話してましたか!?」
「あ、ごめん。そんなに驚くところ?」

 圭介はきょとんとした表情で美海を見た。美海はといえば、自分の行動を振り返っている。明季がいてくれたおかげで、圭介と二人きりの時よりはずっとよく話したが、あれは話しすぎなのだろうか。もしかして圭介に引かれてしまっているのではないか。そこまで考えるのに3秒だ。

「もしかして、浅井さんがもっと話したかったですか?」
「あーいや、そうじゃなくて。よく話す松下さんは新鮮だったから。」

 それは一体どういう意味だろう。圭介と話すとき、色々なことを考える。思考と感情が追い付かなくなるときがある。今も圭介の言葉に含まれるであろう多数の意味の解釈に思考をめぐらせている。そしていつだって、答えが見つからない。
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