10回目のキスの仕方

「…それは、どういう…。」
「俺と話すとき、あんまり言葉が続かないみたいだから。」

　これにはぐさっときた。そんな風に思われていたのだと思うと、泣きそうだ。ただ、ここで泣くとその説明ができないからこそ、鼻の奥にツンときていることを悟られないようにしなければならない。

「ち…がい、ます。」
「え？」

　圭介の足が止まった。美海の足も止まっている。美海の声は震えている。

「…続けたい、のに…出てこないんです。色んな事を、考えて…しまう、から。」
「考える？何を？」
「浅井さんがどういう意味で、意図で言ってるのかなって考えます。あと…どういう風に返すのが一番いいのかなって…。」
「ごめん、もしかして気をつかわせてた？」
「…違い、ます。私が勝手に…緊張してるだけ、です。」
「そういう空気を、俺が作ってるのかも。」
「そうじゃないです！…そうじゃ、ないん…です…。」

　美海は顔を上げられなくなってしまった。込み上げてきた涙が地面に一滴落ちた。

「…ごめん。」
「…ごめん、なさい。」
「なんで松下さんが謝る？」
「…泣くつもり、なかったからです。」
「俺も泣かせるつもり、なかった。」
「いきなり泣いて…ごめんなさい。もう大丈夫です。」
「…多分、それ嘘。」
「え…？」

　7文字というあまりにも短い言葉。それに思わず顔を上げると、圭介は困ったような表情で頭を掻いた。

「松下さんはそんな簡単に『もう大丈夫』になるようなことで、泣く人じゃない。」

　一呼吸置いて『と思う』が付け足された。そうだ、その通りだ。全然大丈夫じゃない。言葉は続けたい。いつだってそう思っている。上手に話せるようになりたいと思う。いちいち緊張なんかしないで、いつも通りの自分で。でも、それができない。だから…

「…人と話すの、苦手です。特に…男の人は。でも、…上手に話せるようになりたいって、思ってます。浅井さんと…もっとちゃんと話せるように…なりたいって、思ってます。」

　涙が少しだけ滲む視界に立つ圭介は、真っ直ぐに美海を見つめ返していた。