10回目のキスの仕方
「ところで、なんでバイト?」
「え?」
「バイト始めたって。」
「あ、えっと、…何事も経験かなって思いまして。…変、ですか?」
「いや、何事も経験っていうのは、その通りだと俺も思うから。」
(…この流れなら、聞けるかもしれない。浅井さんのバイト。)
「あの、浅井さん。」
「…ん?なに?」
「あの、浅井さんは…何のバイト、してるんですか?」
「あー、俺はコンビニと家庭教師。」
「掛け持ちしてるんですか?凄いです!」
「掛け持ちって言っても、そんなに入ってないから忙しくないけど。」
「でも家庭教師なんて…頭がよくないと…。」
「頭良くなくてもやれるよ、その子、中学レベルも怪しい高校生だから。」
「こ、高校生でしたか!それはなお凄いです…。」
家庭教師に指導してもらったことは美海の経験上一度もない。そのため、あくまで想像の域を出ないが生徒との関係や保護者との関係を上手に作っていくことを考えると、到底自分には出来ないと思う。少なくとも、今は。
「全然。しかも身内だから。遠い親戚の子。」
「え、そうなんですか?」
「うん。だから給料貰うのも変な話なんだけど、断ってもどうしてもって言われたから。」
「なるほど。」
気が付けばもうアパートの付近まできていた。
「あ、あのっ!」
「…なに?」
いい加減、いちいち勇気を振り絞らなくても気持ちを伝えることができるようになりたい、そんな気持ちばかりが強まって、それに伴う勇気が成長してくれない。だから今は、一生懸命顔を上げて、目を逸らさないようにする以外にない。
「…今日は、ありがとうございました。いつもいつも…迷惑かけてばかりですけど…でも、楽しかったです。」
美海は深く頭を下げた。ゆっくりと顔を上げると、圭介は少しだけ微笑んでいる。そんな圭介を見ると、胸がきゅうっと苦しくなる。
「…最初から思ってたけど、松下さんは律儀。」
「え、えっと…多分そんなことは…。あの、おかしいですか?」
「ううん。いいんじゃない?真っ直ぐありがとうって言われると、返しやすい。」
『こちらこそ、ありがとう』と、圭介の声は美海の耳に心地よく響いた。
「あ、やぁっと帰ってきたー圭ちゃん!」
その余韻をかき消すような高い声が、走ってくる。
「え?」
「バイト始めたって。」
「あ、えっと、…何事も経験かなって思いまして。…変、ですか?」
「いや、何事も経験っていうのは、その通りだと俺も思うから。」
(…この流れなら、聞けるかもしれない。浅井さんのバイト。)
「あの、浅井さん。」
「…ん?なに?」
「あの、浅井さんは…何のバイト、してるんですか?」
「あー、俺はコンビニと家庭教師。」
「掛け持ちしてるんですか?凄いです!」
「掛け持ちって言っても、そんなに入ってないから忙しくないけど。」
「でも家庭教師なんて…頭がよくないと…。」
「頭良くなくてもやれるよ、その子、中学レベルも怪しい高校生だから。」
「こ、高校生でしたか!それはなお凄いです…。」
家庭教師に指導してもらったことは美海の経験上一度もない。そのため、あくまで想像の域を出ないが生徒との関係や保護者との関係を上手に作っていくことを考えると、到底自分には出来ないと思う。少なくとも、今は。
「全然。しかも身内だから。遠い親戚の子。」
「え、そうなんですか?」
「うん。だから給料貰うのも変な話なんだけど、断ってもどうしてもって言われたから。」
「なるほど。」
気が付けばもうアパートの付近まできていた。
「あ、あのっ!」
「…なに?」
いい加減、いちいち勇気を振り絞らなくても気持ちを伝えることができるようになりたい、そんな気持ちばかりが強まって、それに伴う勇気が成長してくれない。だから今は、一生懸命顔を上げて、目を逸らさないようにする以外にない。
「…今日は、ありがとうございました。いつもいつも…迷惑かけてばかりですけど…でも、楽しかったです。」
美海は深く頭を下げた。ゆっくりと顔を上げると、圭介は少しだけ微笑んでいる。そんな圭介を見ると、胸がきゅうっと苦しくなる。
「…最初から思ってたけど、松下さんは律儀。」
「え、えっと…多分そんなことは…。あの、おかしいですか?」
「ううん。いいんじゃない?真っ直ぐありがとうって言われると、返しやすい。」
『こちらこそ、ありがとう』と、圭介の声は美海の耳に心地よく響いた。
「あ、やぁっと帰ってきたー圭ちゃん!」
その余韻をかき消すような高い声が、走ってくる。