10回目のキスの仕方
* * *

「はぁ…。」

 圭介は深いため息をついた。ため息もつきたくなる。どれだけ彼女を傷つければ気が済むのか、と。

「あの人だぁれ?圭ちゃんの彼女?」
「…彼女はお前だって自分で言ったじゃん。」
「そうだけどー。」
「彼女じゃない。玲菜、お前もだ。」
「知ってるよーだ。」
「じゃあなんでそういう嘘をつくんだよ。」
「圭ちゃんのことが好きだから!」
「だから、それは…ってもういい。帰るぞ。」
「えぇー圭ちゃんのお家に泊めてくれないの?」
「当たり前。」
「ひどーい。」

 酷いのはどっちだと言いたくなる気持ちをぐっと押さえて、圭介はスマートフォンを取り出した。連絡先は玲菜の母だ。

「夜分遅くにすみません。玲菜が僕の家に来ていて。なので今から送ります。」
『圭介くんのところにいたの!?散々探してもいなかったのに!私も圭介くんのお家の方に向かって歩くわね。』
「入れ違いになっても困りますし、送りますよ。待っていてください。」
『ごめんなさいね。じゃあ、お願いします。』
「はい。」

 通話終了をタップして、通話を終えた。玲菜を見て、もう一度深く息をはいた。

「なによー?」

 頬を少し膨らませながら、ポストに背中をもたれかけて玲菜が立っている。もう11時も近い。高校生がこんな時間にふらついていたら補導されても仕方がないというのに全く危機感のない玲菜の様子に、普段はあまり怒りの感情をもたない圭介も少し苛立っていた。苛立っていたのはモラル的な意味だけではおそらくない。
 たった数分前まで話せていた彼女―――松下美海が遠く感じられる。多分傷つけた。彼女は純粋で、真っ直ぐであることは疑いようもない。そんな彼女を傷つけること、すなわち泣かせてしまうことに対する罪悪感が異常であることは、身をもって知ったばかりだったはずだ。それなのに、もう二の舞を踏むなんて。

「帰るよ、玲菜。」
「…待って。」
「待たない。」

 必要以上に冷たくしている自覚がある。だが、こうでもしないと今自分がどうしたらよいのかわからない。圭介の頭は今、確実に混乱していた。
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