10回目のキスの仕方
* * *

「うわ美海、一体どうしたのよその目!」
「…明季、ちゃん…おはよう…。」
「おはよう。…あんたの顔、ゾンビみたいよ。」
「…と、友達に向かってゾンビって…ひどいよ…。」
「酷いのはあんたの顔だ!」

 あんまりすぎる明季の物言いではあるが、否定はできないくらいに酷い顔だった。目は腫れぼったく、化粧ののりが悪すぎた。

「よくそれで大学来ようって思ったね。」
「…だって、顔が酷いって休む理由にならないもん。」
「そりゃそーだ。変なとこ真面目だなー美海は。」

 軽く笑い流してくれることが救いだ。美海は重い瞼を押し上げた。今日は幸いにも明季と二人で受講している講義しかない。これで圭介や洋一と会う方が無理だ。

「それで、何があったわけ?」
「…み、見ちゃったの…。」
「何を?」
「浅井さんの…。」
「なに、彼女でもいたの?」

 美海は小さく頷いた。明季が一緒にその場にいたかのように当ててくるから美海も驚く。

「えぇー!浅井サン、彼女いたわけー!?洋一、いないとか言ってなかったっけ?」
「それは…えっと、わかんない、けど…。」
「で、その子と鉢合わせちゃったわけ?」
「…うん。」

 鉢合わせ方も最悪の方に入ると思う。まさか、自分があんな場面に出くわすなんて、今まで一度だって考えたことはなかった。

「で、浅井の彼女でーすってか。」
「…まぁ、そんな感じ。」
「なにその女!あたし絶対仲良くなれないんだけどー。」

 美海は俯いた。あの場面を思い出すと、またじわりと涙が込み上げる。泣いたって何かが変わるわけでもなければ、変えられるわけでもない。それなのに、一度流れたら止められない。圭介と出会ってから、自分は泣いてばかりなような気がする。泣きたいわけではないのに。
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