10回目のキスの仕方
* * *
「今日はよろしくな!」
「はいはーい!」
「…お役に立てるか…不安です。」
「こら美海!そういうこと言わない!」
「はい…。」

 そう返事をしたものの、美海の気持ちは複雑だ。もう既に知らない人が沢山いる。そもそも、人付き合いの苦手な美海が知っていて、きちんと話せる人の方が少ないくらいだ。

「ねぇ、明季ちゃん…。」
「帰りたい、はなしだから。」
「…逃げたい、は?」
「同じ意味でしょーが!」
「いたっ!」

 額にデコピンを受けてたじろぐ美海をよそに明季は、幹事の集まる方へ行ってしまった。これで美海は完全に一人になってしまった。

(…どうしよう。一体どこに行って、何をしたら…。)

「松下さんは、ここのテーブルのお酒足りてるか確認してくれる?それと、足りなくなったら注文も。」
「わ、わかりました!」

 仕事を与えてもらったほうが有難い。そう思って新入生なのか、それとも同学年なのかわからない人に話しかける。

「…あの、お酒足りて、ますか?」
「あ、はい。ありがとうございます!」

 敬語ということはおそらく1年生なのだろう。女子二人組はオレンジ色のグラスと赤紫色のグラスを手にしている。

(お酒、なのかな。詳しくないからわからないけれど。)

 本来、主催者側である2年生でも未成年者は多い。しかし、大学生という身分は非公式に飲酒を許可されている。美海も甘口のカクテルを飲んだことはあるが、少量で顔が真っ赤になってしまった。それ以来、酒を口にはしていない。

「あ、次は何を飲みますか?」
「え、えっと、生ビールを2つお願いします。」
「はい。」

(…何、やってるんだろう、私。こんなことなら、家で読書してた方が100倍くらい楽しい、と思っちゃう。)
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