10回目のキスの仕方
* * *
結局、美海が目覚めたときには圭介は美海の部屋にはおらず、鍵がしっかりと閉められていた。(鍵は玄関のポストから玄関の中に入れられていた)食器も全て綺麗に片付けられていて、美海はますます申し訳なくなった。
ふと、テーブルの上に目を落とすと、小さな紙切れに電話番号が書かれていた。
― ― ― ― ―
080-XXXX-XXXX
携帯の番号です。何かあったら遠慮なくかけて。
― ― ― ― ―
熱は下がり、もう体調はかなり良くなっていた。喉の痛みや咳は少し残るけれど、それは徐々に治していくしかない。それよりも問題なのはこの紙切れだ。もう美海の身体には圭介に助けを求めなくてはならない異常はない。だが、圭介に言わなくてはならないことは沢山ある。ただ、それを伝える手段として電話を用いるのは、とてつもなく緊張する。
「…でも…かけないと…なんか失礼…かな…。」
今こそ、振り絞るべきときであると思う。勇気を。
スマートフォンの画面に触れ、番号を入れて通話とかかれた画面にも触れようとする。その指が震えた。耳に伝わる機械音が心拍数を早めていく。
コール5回で機械音が声に変わった。
『もしもし。』
「あっ…浅井さん!すみません。今、大丈夫ですか?」
『あー松下さん。大丈夫だよ。まだ体調悪い?』
「あのっ…えっと…体調は大丈夫です。」
『じゃあ…』
ただ、感謝の気持ちを伝えたかっただけで電話をしたと伝えたら、呆れられてしまうだろうか。だとしても…
「…ただ…あの…ありがとうって…言い、たくて…。」
『え…?』
呆れているというよりはむしろ驚いているように聞こえる圭介の声。それに自分は一体何を返せばよいのか戸惑う。
「…とても助かりました。煮込みうどんも美味しかったです。来週の講義はちゃんと出れそうです。」
『…そっか。良かった。』
優しい声に昨日の圭介の仕草の全てを思い出す。突然触れた手に熱くなったのはきっと熱のせいじゃない。ただ、それを認めたくないような気持ちもあって、それが混乱を引き起こす。
『じゃあまた、大学で。』
「はいっ…!あの、…お忙しいのに、すみませんでした。本当にありがとうございました。」
『俺がしたくてしたことだから…大丈夫。あんまり無理しないで、ちゃんと休んで。』
「はい。…それでは。」
『うん。また。』
名残惜しいような気がしてなかなか切れない。それは相手も同じだったのか、機械音は少し経ってから聞こえた。
結局、美海が目覚めたときには圭介は美海の部屋にはおらず、鍵がしっかりと閉められていた。(鍵は玄関のポストから玄関の中に入れられていた)食器も全て綺麗に片付けられていて、美海はますます申し訳なくなった。
ふと、テーブルの上に目を落とすと、小さな紙切れに電話番号が書かれていた。
― ― ― ― ―
080-XXXX-XXXX
携帯の番号です。何かあったら遠慮なくかけて。
― ― ― ― ―
熱は下がり、もう体調はかなり良くなっていた。喉の痛みや咳は少し残るけれど、それは徐々に治していくしかない。それよりも問題なのはこの紙切れだ。もう美海の身体には圭介に助けを求めなくてはならない異常はない。だが、圭介に言わなくてはならないことは沢山ある。ただ、それを伝える手段として電話を用いるのは、とてつもなく緊張する。
「…でも…かけないと…なんか失礼…かな…。」
今こそ、振り絞るべきときであると思う。勇気を。
スマートフォンの画面に触れ、番号を入れて通話とかかれた画面にも触れようとする。その指が震えた。耳に伝わる機械音が心拍数を早めていく。
コール5回で機械音が声に変わった。
『もしもし。』
「あっ…浅井さん!すみません。今、大丈夫ですか?」
『あー松下さん。大丈夫だよ。まだ体調悪い?』
「あのっ…えっと…体調は大丈夫です。」
『じゃあ…』
ただ、感謝の気持ちを伝えたかっただけで電話をしたと伝えたら、呆れられてしまうだろうか。だとしても…
「…ただ…あの…ありがとうって…言い、たくて…。」
『え…?』
呆れているというよりはむしろ驚いているように聞こえる圭介の声。それに自分は一体何を返せばよいのか戸惑う。
「…とても助かりました。煮込みうどんも美味しかったです。来週の講義はちゃんと出れそうです。」
『…そっか。良かった。』
優しい声に昨日の圭介の仕草の全てを思い出す。突然触れた手に熱くなったのはきっと熱のせいじゃない。ただ、それを認めたくないような気持ちもあって、それが混乱を引き起こす。
『じゃあまた、大学で。』
「はいっ…!あの、…お忙しいのに、すみませんでした。本当にありがとうございました。」
『俺がしたくてしたことだから…大丈夫。あんまり無理しないで、ちゃんと休んで。』
「はい。…それでは。」
『うん。また。』
名残惜しいような気がしてなかなか切れない。それは相手も同じだったのか、機械音は少し経ってから聞こえた。