10回目のキスの仕方
* * *

 ファミレスから本屋までは一緒に歩いて帰り、そこで店長、玲菜とは別れることになった。

「松下美海!」
「は、はいっ!」
「こら、美海さん、もしくは松下さんでしょーが。」
「あいたっ!」

 こつんとグーで頭を叩かれて一瞬しかめっ面になる玲菜に少しだけ笑いが込み上げるが、ここで笑っては怒られると思いぐっと堪えて締まった顔を作る。

「あたし、諦めてないから。」
「は、はいっ!それはさっきのお話で充分伝わりましたっ!」

 敬礼でもした方が良いのではないかというくらいに真っ直ぐと言われる。

「帰るっ!」
「途中まで一緒に帰るよ、玲菜ちゃん。美海ちゃん、またね。」
「はいっ!お疲れ様でした。」
「また女子会しようね。」

 そう言ってひらひらと手を振る福島とは裏腹に、べーっと舌を出してそっぽを向いてしまった玲菜の背を見送って、美海は自分の家の方へ向き直った。


* * *

「玲菜ちゃん、敵視しすぎじゃない?美海ちゃんにそもそもの罪はないでしょうよ。」
「…だって、ずるいんだもん。あたしよりも圭ちゃんのこと好きじゃないくせに、あたしよりもずっと圭ちゃんの近くにいるし。何の苦労もしないで!」
「うーん…まぁ、何の苦労もしてないかどうかは美海ちゃんに聞いてみないとわからないけど、でも、恋愛なんてそんなもんよ。ずっと好きだったから叶うとか、そんなのは御伽噺とか少女漫画とかそれこそ小説とか全て二次元の話。現実はぽっと出の人にとられてしまったり、どうでもいいことで喧嘩してそれっきりだったり、それこそノーマークだった人に告白されて始まっちゃったり。全然自分の思い通りにならないけど、始まったり終わったりする。」
「店長もそんな感じですか?」
「そうねー…じゃあこの話は次の女子会で!」
「えぇー今じゃないんだー!今聞きたいのにー!」
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