10回目のキスの仕方
* * *

「…お邪魔、します。」
「狭くて汚いけどごめんねー。」
「いえ…。」

 時刻は10時半。缶チューハイを3つ、近くのコンビニで購入し、今に至る。

「さーさー座って座って。」

 白い丸テーブルが中央に置いてあるリビングだ。6畳の部屋が二つあり、もう一つの部屋は寝室のようだ。福島は汚いと言ったが、美海にはそうは思えないほどにはきちんと整頓されている。

「さて、飲みますか。」
「えっ…あの…私お酒は…。」
「んー?未成年だっけ?」
「あの…それもあるんですが…お酒、弱くて…。」
「そっか…。ま、でもチューハイだし、ゆっくり飲めば酔わないって。私と半分こ。」

 そう言って小さめのグラスに注がれたチューハイは薄いピンク色だ。グラスがカツンと音をたてた。

「仕事お疲れ様。乾杯。」
「…お、お疲れ様です。」

 少しだけグラスを口にすると甘さが優しく口内に広がった。

「飲めそうでしょ?甘口。」
「…口当たりは嫌いじゃないんですが…。」
「そうなんだ。じゃあ嫌いなんじゃなくて、飲むと酔っちゃうから飲まないのかな?」

 美海はこくんと頷いた。

「それは『彼』についても同じなんじゃない?」
「え…?」

 突然切り込んできた話に美海はたじろいだ。彼が誰を指すのかわからないほど鈍いつもりはない。

「近付きすぎると酔っちゃうから、離れたいって感じ?」
「…近付きすぎた…のかも、自分ではよくわからない…です。」
「遠すぎて苦しいようには…見えない、かな。」

 確かに、圭介との距離は遠くない。ただ、近すぎるとも思わない。

「美海ちゃんの身体が一瞬びくってしたの、浅井さんと何かあったから、でしょう?」

 いきなり核心をついた発言に、美海は視線を下げるほかなくなった。否定はできない。何もなかったなどと、嘘を上手くつけるほど自分が器用ではないことを日々思い知る。
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