レオニスの泪
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18時を過ぎた所だと言うのに、辺りはまだ明るい。
お迎えに来た母親同士のおしゃべりが終わるのを待っている子供達が、園庭の鉄棒にぶらさがって、笑い声を立てている。
幼稚園では、母親達の井戸端会議は至ってよく目にする風景だが、保育所ではそうではない。
仕事から、今度は家事へと移行するだけのこの時間は、母親にとって単なる通過点に過ぎないからだ。
恐らくあのおしゃべりも、直ぐにお開きになる筈だが。
他より若い自分は、珍しいその輪の中に入って行く事も出来ず、どこかしら浮いていた。
他の子の母親達と接することは皆無に等しい。
かといって、そうしたい、と願っている訳ではないのだが。
「おかえりなさーい」
光景を横目に教室へ着くと、長い髪をきゅっと縛り上げて、ポニーテールにしている先生が、にこやかに笑い掛けてくれる。
「ありがとうございました」
「ママー!」
頭を下げている途中で、教室の奥から慧がトタトタ走ってくる音が聞こえた。
「おかえりなさーい!!!」
「ただいま。」
当たり前のように抱擁しようとする慧に、今日は素直に応じることができた。