レオニスの泪
「…ない、です…」
「そう…好きな本、とか祈さんはあるの?」
神成は、真っ直ぐに私と向き合いながら、会話していく。
私は、椅子に座り、そんな彼を観察していた。
「本…」
「そう。本とか、読んだりする?」
考えてみても、思いつくものはない。
本を読むことは好きだが、もう何年も本を読む時間がない。
「いえ。好きだったんですけどー」
「そっか」
「先生は?」
「ーえ?」
切り返してみて、気づく。
神成のことを、先生と呼んだのは、これが初めてではないか、と。
「先生は、オススメありますか。」
唐突だったのだろう。
若干、神成の目が驚いているように見えた。
「そう、だねぇ…」
直ぐに考えるように、顎に手を当てる。
「僕の好きな本は、どれもメジャーなものではないから、祈さんには退屈だと思うよ。」
やがて、困ったような笑顔を見せた。
「じゃ、なんでも良いです。先生の好きなものって、なんですか。」
枯れた声が、どこか痛々しい。
自分のだけど。