レオニスの泪
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「ごほ…ごほ…」
「葉山さん、随分風邪長引いてるみたいだけど、大丈夫?」
ーまた、大丈夫、か。
自分の中で浅く笑い飛ばしながら。
「ええ。」
短く木戸に答える。
木戸は、定期的に視察しに来る委託業者の人間で。
私は派遣として一応木戸の会社にも籍を置いて、ここで働いている。
「そう…お大事にね。」
これで、私が大丈夫じゃない、と答えたところで、結果は変わらない。
ぎりぎりの人数でやっているんだから、代わりなんて居ない。
休まれたら困るのは現場だ。
「…良いわねぇ。若いと、心配してもらって。」
洗い物を保管庫に閉まっていると、笹田がおもむろに隣に来て、こそっと耳打ちしていく。
「…別にそんなんじゃないと思いますよ。」
良い歳して、憶測で嫉妬、とか、面倒過ぎる。
「葉山さんは、鈍いわねぇ!木戸さん、葉山さんのこときっと狙ってるわよ!」
「はは…有り得ないですよ。木戸さん、結婚されてますよ。」
「今の時代、そんなの関係ないわよ!」
「………」
笹田の道徳観念は、若い私よりもなぜか崩壊している。
否定するのも億劫だし、肯定はしたくない。
よって、無言を貫いた。