レオニスの泪
神成の診察から、一週間。
当たり前だが、病院から連絡がくる事もなく。
何事もなかったかのように、私も仕事をしに、大学病院へ来ている。
「お先、失礼します。ゴホ…」
「お疲れ様ー」
金森の声がやけに、頭に響く。
しんどい。
これは、精神科には行かずとも、内科には行った方が良いかもしれない。
ー慧迎えに行った足で、川上診療所に行くかな。
そんなことを考えながら、病院を出た。
そこへ。
「葉山さん」
突然、後ろから名前を呼ばれて、反射的にビクっと身体が強張った。
「あ…木戸、さん…」
小走りに追いかけてきたのか、少しだけネクタイが乱れている。
何故だか、ほっとした自分。
ー誰だと思ってたの。
ふと浮かんだ神成の顔。
有り得なくない気もするが、神成がそこまでして自分を気にかけることもないだろう。
所詮、ただの、患者だ。
「ちょっと…良いかな。」
「?…はい」
木戸は、ダークブラウンの前髪を、サラリーマン風に、と言うべきか、横に流していて、清潔感がある男だった。