レオニスの泪
朦朧とした意識で、なんとか倒れないように立って、数歩先の木戸を見上げる。
「…ほんとに無理してない?送ろうか?」
思わず脱力してしまう。
本題にやっと入るのかと思いきや、戻ってしまった。
「すいません、要件を手短にお願い出来ますか?」
「あ、うん。その…ゴホ」
急かすと、木戸は風邪からではない咳払いを一度して、目を泳がせる。
「付き合ってくれないかな。」
「ーは?」
悔しいかな、笹田の顔が思い浮かぶ。
木戸は今、何と言ったのか。
「どこへですか?」
勘違いであって欲しいとの願いを込めて、聞き返すと木戸は、勘弁してよ、と目を細めた。
「俺、本気で言ってるんだけど。」
「ご結婚されてますよね?」
「事実上は破綻してる。」
「私は子持ちですけど?」
「知ってるよ。俺には子供はいない。」
何。
だから、何なの。
やっと陽が傾いてきたお陰で、日陰が出来、眩しさが和らぐ。