レオニスの泪
「ここって―先生とかは食べに来たりしないんですか?」
椅子に座ることなく、渡し口で笹田とおしゃべりを続ける森が、ふと周囲を見回して訊ねる。
耳に入らないようにしているのだが、難しいもので、森の纏わりつくようなべったりとした喋り方に、むかつきを覚えた。
「先生方はほとんど―、忙しくしてらっしゃるからね。中々昼の時間も取れないんじゃないかしら。」
笹田が、どうして?と首を傾げると、森がにやりと笑う。
「惜しいですねぇ、笹田さん。この4月に精神科の方にきた先生、めちゃくちゃイケメンなんですよ。会うことがあれば、目の保養になったのにねぇ。あれじゃぁ、ナースもより取り見取りですよ。」
「ええ!?何それ、見たいじゃないの!精神科?何て先生?」
―くだらな…
マスクの下、思わず鼻で笑ってしまう。
「はい、出ます。」
割り込むように、トレイに注文された品をトトン、と置いて、困惑気味のレジ係りの女の子に目配せした。
「あ!ありがとう葉山さん!」
気付いた森が、叫ぶので。
―馴れ馴れしく名前を呼ぶな。
「いえ。」
キャップとマスクの間の目だけで、思いっきり冷たい一瞥を向けてやった。