レオニスの泪
カルテⅤ
ー自分でも、どうしてこんな行動に出てしまったのか、わからない。
暗闇の中街灯がぼんやりと、桜の葉を照らしている。
ひどかった雨は、静かなものに変わっていて、そろそろ止むのではないかと思わせた。
自分の胸の中に閉じ込めた対象は、されるがままになっていて、どういう反応をしているのかは、知ることが出来ない。
「…どうして、他人の為に…私なんかの為に、ここまでするんですかっ…」
もう後には引けない。
疑問をそのままぶつけた。
「先生には、大切な人が居るんでしょう?」
神成を見つけた時。
静かに空を見上げている姿が、やけに儚く映った。
記憶を総動員して今までの神成を思い出してみても、やっぱり彼はどこか儚げだった。
そう私に思わせる様になったのは、あの時もらった神成からのメモを見てからだ。
ー僕は大切な人に、笑っていて欲しくて、先生になりました。
「私よりも…先生の大切な人の笑顔、守って下さいよ…」
私は気付かない内に、神成の存在を大きくしてしまっていたらしい。
だから。
今はギリギリの境界線なんだと思う。