レオニスの泪
―金曜日。
「葉山さん、明日ちょっと早く来てもらえる?」
いつもより、少し遅く着替え終わった所に、金森が申し訳なさそうな顔をしてやってきた。
「―良いですけど、何かあったんですか?」
「林さんのお子さんがね、熱出しちゃったらしくって。今連絡が来たのよ。急で申し訳ないんだけど…」
「大変ですね―。お子さん幾つでしたっけ。」
「ええと、確か小学校上がったばっかりじゃなかったかしら?」
「へぇ、じゃぁ、まだ小さい………」
―しまった。
汗がさぁっと退くのを感じた。
「じゃ、8時半に来てくれる?」
「………」
「葉山さん??」
名前を呼ばれて、かろうじて彷徨っていた思考から我に返った。
「あ、、はい…」
「よろしくね。お疲れ様。」
「はい、、お疲れ様…でした…」
金森はくるっと踵を返すと、直ぐに部屋から出て行った。
取り残された私は。
「はは…やばい…」
明日、保育参観だったこと。
有給を申請するつもりだったのに、すっかり失念していたこと。
自分の不甲斐なさにがっかりし過ぎて、もう何がなんだかわからなかった。
「仕方、ない、か…」
慧の悲しむ顔が浮かんで。
―ごめん、慧。
急いで打ち消した。