レオニスの泪









「ふふふ…葉山さん、私ね。神成先生、リストに入れちゃった。」


ミーティング中だと言うのに、笹田がコソコソと耳打ちしてくる。


「…そうですか」


私はそれを聞き流す。

調理場内には金森の指示する声が、響いている。



「こないだは森さんとつい話しちゃって逃げられちゃったけど、今度来たら独り占めしちゃうんだから!と言う訳で、夕方のレジになったら、変わってね!」



きゃは、と嬉しそうに片目をつぶって見せる笹田。




「はぁ…」



ここまで自分に素直に生きれるなんて、ある意味羨ましい。

気の無い返事をして、今日の自分のワークスケジュールを目で確認した。

のっけからレジで、弱り目に祟り目か、と寝不足と憂鬱な頭でうんざりする。


客を相手にする元気は、自分には今ないというのに。








「なんの話?」


開店直後で、まばらな店内。


レジの前に立ち、眠気と奮闘していれば、背後から突然声を掛けられ、ビクと肩が震えた。


振り返れば、スーツ姿の木戸が立っている。



「は…えっと…」



ーなんの話って、なんだろう。


いつも巡回は午後が多いのだが、今日は朝から木戸が来ていた。

木戸とはあれ以来なのだが、別段気にすることもなく、いつも通り挨拶したし、彼もいつも通り挨拶を返してきた。


< 180 / 533 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop