レオニスの泪
「ふふふ…葉山さん、私ね。神成先生、リストに入れちゃった。」
ミーティング中だと言うのに、笹田がコソコソと耳打ちしてくる。
「…そうですか」
私はそれを聞き流す。
調理場内には金森の指示する声が、響いている。
「こないだは森さんとつい話しちゃって逃げられちゃったけど、今度来たら独り占めしちゃうんだから!と言う訳で、夕方のレジになったら、変わってね!」
きゃは、と嬉しそうに片目をつぶって見せる笹田。
「はぁ…」
ここまで自分に素直に生きれるなんて、ある意味羨ましい。
気の無い返事をして、今日の自分のワークスケジュールを目で確認した。
のっけからレジで、弱り目に祟り目か、と寝不足と憂鬱な頭でうんざりする。
客を相手にする元気は、自分には今ないというのに。
「なんの話?」
開店直後で、まばらな店内。
レジの前に立ち、眠気と奮闘していれば、背後から突然声を掛けられ、ビクと肩が震えた。
振り返れば、スーツ姿の木戸が立っている。
「は…えっと…」
ーなんの話って、なんだろう。
いつも巡回は午後が多いのだが、今日は朝から木戸が来ていた。
木戸とはあれ以来なのだが、別段気にすることもなく、いつも通り挨拶したし、彼もいつも通り挨拶を返してきた。