レオニスの泪
それから木戸に話しかけた覚えはないし、今だって独り言も何も言っていないはずだ。
自覚症状がないまま、一瞬眠ってしまって、寝言を言っていたのならあり得るかもしれないが。
十中八九、黙ってレジの前に立っていたと思う。
「朝、ミーティングの最中、笹田さんとなんの話してた?」
ーあ、そっちの。
言われて、合点がいって、一拍後に、どきりとした。
見られてたのか、と。
「…すいません」
別に話してたわけじゃなく、一方的に話されていただけだけど、一応謝る。
「ー俺、バックヤードでしばらく事務作業してるから、休憩になったら来て。」
ーえ。
客が店に入ってきた為に、何か言いかけた所で木戸はそう言って、背を向けた。
ーなんで?私が怒られるの?ってかそんなに大声じゃなかったし、目立つ程でもなかったと思うけど。怒るならあのおばさんを怒れよ!
中年男性の接客をしながら、戸惑う自分が居る。