レオニスの泪
「…休憩なのに、悪いね。」
事務机に向かっていたらしい木戸は、キッと音を立てて回転椅子ごと私を振り返る。
「…いえ」
私はドアの前に立ったまま、それより中に入ることもせずに、口だけで答えた。
バックヤードは、調理場と休憩室の間にあって、バックヤードを通らなければ休憩室には行けない造りになっている。
ここ自体には帳簿やら納品書やらが保管されていて、恐らく木戸はそれをチェックしていたのだろう。
本来ならさっさと通過して休憩室に荷物を取りに行きたい所なのだが、木戸がいる事務机は休憩室へ繋がるドア側にあるのだ。
ーなんて答えよう。
私語を注意されたら、笹田のことを言おうか、庇うか迷っていた。
完璧笹田が一方的にしゃべっていたのは明らかなのだから、庇う義理なんかはないが、言付けたことで働きにくくなるのは面倒だ。
ーとにかく何言われるか聞いてから判断すればいいか。
何にせよ、どうしてか、木戸に呼ばれたのは私だけなのだから。
「ーさっきの話だけど…」
私が下に落としていた視線を上げると、木戸は腕と足を組んでから、口を開いた。