レオニスの泪




要は、私に振られたのが気に食わないんだろう。

木戸は、絵に描いたようなデキる男、みたいだったし、ルックスも森に比べたら数十倍良い。


それが、一介の食堂パートなんかに拒否されて、プライドが傷付いて、引くに引けないのかもしれない。

頭の中では、異動させられたら面倒だなと言う思いが過る。

もしかしたら、辞めさせられるかもしれない。


ーでも。


束の間、途方に暮れ、彷徨っていた視線を、一点に固定し、顎をグッと引いた。


「わかりました。その権限とやらで異動させるなり辞めさせるなりしてくださって結構です。決まり次第教えてくださるとありがたいです。では、休憩時間がなくなりますので、失礼します。」


既婚者と。


いや木戸と付き合う気は、一切ない。



小さく会釈して、木戸の脇を通り過ぎ、奥へと向かった私に。




「ー離婚したら、考えてくれる?」


木戸がまだ問い掛ける。


私はノブに手をかけつつ、振り返らずに。


「私はそんな価値のある女じゃありません。」


そう答えて部屋を後にした。
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