レオニスの泪
あ、まずい。
そう思った時、ふいに引き寄せられた。
鼻を掠るミントの香りと、体温。
「泣いて良いよ。我慢することない。」
言われて初めて気付く。
自分の目の淵に溜まった熱に。
束の間分からなかったのは、押し付けられたジャケットが、それを吸い取っていたから。
「祈さんを想う資格がないのは、そいつの方だ。」
と、神成の声が静かに耳元で響く。
「価値がないのは…君じゃない。」
ー泣いてる、私。
ふ、と自分が息を吐いた音と、ひっと吸った音が交互に鳴るのを、不思議な思いで聞いていた。
感情の伴わない涙は幾らでもあった。
原因がわからず、ただただ勝手に溢れていく涙は。
けれど、こんな風に心と身体が一致して、感情が溢れることは、もうずっとなかったような気がする。
神成は。
力強く抱き締めるでもなく、離れるでもなく。
ふんわりと私を寄せていて、泣き顔を見ない様に配慮してくれているようだった。