レオニスの泪
「―どうして、教えてくれなかったんですか?」
責めるつもりは毛頭ないが、どうしても責めているような言い方になってしまう。
「それは…」
先生は、少し気まずそうな顔をして。
逡巡するように、ぱっと視線を落とし、やがて再び私を見た。
遠くで、子供がきゃははと笑い合う声が聞こえた。
「―いつも遊んでいる智也(ともや)君が、とってもサッカーが上手なんです。パパが毎日お仕事から帰ってきて教えてくれるかららしいんですね。智也君は、慧君にパパが居ないこと知らないので、それを慧君に話したみたいで…」
―ああ、そっか。
そこまで言われた所で、ピン、ときた。
父親が居ないという事は、今時珍しくない。
でも、それは動かすことの出来ないどうしようもない事実で。
それで、喧嘩になった、と私に伝えた所で、困惑させてしまうだけだから。
先生達は、気遣いから私に言わないでくれたのだ、と。
「慧君、最初はうんうんって楽しそうに聞いてたんですけど…その内智也君を無視するようになってしまって、避けられていると感じた智也君が訊ねるのに肩を掴んだら、慧君がその手を振り払って…お互いカチンときたようで、少しやりあったんです。怪我する程じゃなかったんですけど…。で、智也君は謝ったんですけどね…慧君は、謝りたくないって。仕方ないので私達も、少し様子を見ることにしていたんですが…」
今日も、同じ事で、同じように、喧嘩になったらしい。
―『お父さん、サッカー上手だった?』
慧のあの時の言葉は。
ただの思い付きではないと、どうして気付いてあげられなかったんだろう。