レオニスの泪
彼が欲しがっていた本は、月や惑星等の写真が、百ページ以上に渡って載せられているもので、図鑑のような大型本だった。


一冊5000円超え。滅多に仕入れるものではなかったが。


「在庫はありませんが、、取り寄せなら出来ます。」


検索結果を伝えると、彼は彫りの深い顔をくしゃりと崩し、嬉しそうに笑った。


「それでいいです。お願いします。」


ネットで購入した方が、送料込みで同じ値段なのだから、得だし早いと思うのに、そう言ったのが意外で、客注の伝票に書かれた彼の名前をなんとなく覚えてしまった。



名前の欄には、有江 勇吾(アリエ ユウゴ)と記されていた。


派手な顔をしてるのに、やたら礼儀正しい振る舞いにも、好感が持てた。

それでも、それ以上の接点があるはずもないし、望んでもいなかった。


だが、彼はまたしても、私が勤務している頃に、本を取りに来た。


入荷の知らせを店長が留守電に入れてから、一週間程過ぎた所だった。
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