レオニスの泪
書店が賑わう夕方。

この時間帯は何をやっていようとレジが混む。

レジ担当ではなくても、どこにいても呼ばれるわけで。



「葉山さん!」



隅っこで品出ししていた私は、天敵を見つけたミーアキャットの如く反応。




ーレジか。


しかも、名指し。


普段なら、レジお願いします!と言われる程度なのだが。


ー何故名指し。


若干引っ掛かりつつ、レジカウンターに向かって、合点がいった。



「客注お願い。」


呼んだ先輩が、口早に指示。


伝票を渡され、そこに書いてある受付の自分のサイン。



背の高い彼が、精算を待つ人の行列の端で、じっと待ちの姿勢を取っていた。



「お待たせ致しました。こちらへどうぞ。」


「はい。」


声を掛けると、意識が別の方へ向いていた彼は、数回瞬きをして、頷いた。


レジはフル稼働。

客注を受ける時と同じ、カウンター裏に回ってもらい、取り寄せた本を確認してから、カウンターの上に置く。


「ご確認お願いします。こちらでお間違いないでしょうか。」



真っ黒な中、月の輪郭のみが光る表紙は、中々魅かれるものがある。
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