レオニスの泪
彼はそれを嬉しそうに見つめ、手に取って、パラ、パラとゆっくりめくる。


「ーはい、間違いないです。ありがとうございます。」


明らかに年下な私に、馬鹿丁寧にお礼を言った。

本を扱う姿勢から、彼がどれだけそれを大事に思っているのかが窺える。


「では、あちらのレジは混んでますから、お会計はこちらで致します。」



カウンターに戻された本のバーコードをスキャンして、金額を伝えると、彼は財布から札を出して、私はそれを受け取った。


一連の動作は、いつもと変わりなかった。





「ー4,225円のお返しです…」




最後、釣銭を渡す時以外は。





表のレジを使う時は、トレイの上にお金を揃え、客に受け取ってもらうようになっている。しかし、臨時に開いたレジには、そのトレイがない。


必然的に受け渡しは、手と手で行う事になる。まず先にお札、そして小銭、というように。



「ー?」



渡した筈なのに、逆に掌に何か押し込まれた感触がして、咄嗟に握ってしまう。



< 205 / 533 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop