レオニスの泪
元々勇吾が、自分を好きになってくれた事自体が、不思議だった。

女に困るような顔ではない。

そして、性格も、明るくて人懐こく、何をやらせてもそこそこ出来る器用な人間で、周囲が放っておく訳なかった。

かといって、遊ばれたのでもない。

ただ、余りに、自分たちが若過ぎたこと。
彼にその自覚がなかったこと。
そこまでのー自分よりも私や子供を優先するようなー愛情が無かったこと。

それが。

小さいように思えるそれだけのことが、私達にとって大きな壁となった。


妊娠がわかってから、一変したのは、勇吾の態度と、腫れ物に触れるかのようにしていた両親からの態度。


大学を辞めたくない彼と。
元々利用価値を失いつつあった娘を追い出すことにした両親。


中絶を望む両家。

縋れるのは、勇吾しかいなかったのに、それすらも頼れなかった。


今思えば、籍を入れたのも、一種の罪悪感が理由で、そこに愛なんて、とっくになくなっていたのかもしれない。


順番を間違えた私に、降り掛かったのは、孤独、貧困、倍増した劣等感。
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