レオニスの泪
時間がないから、立ち止まれない。

それを言い訳にして、もしかしたら自分は痛みから逃げていたのかもしれない。

立ち止まれば、過去の自分と向き合わなければいけないから。


だけど、傷口はじわじわと広がって、侵食し続けて、私を捕らえ、逃がしてはくれなかった。


暴れてもびくともせずに、呼吸は奪われ、文字通り身体が壊れた。


その時、神成に出逢った。


神成は、初めての診察で、私に、『彼に会いたいか』と訊ねた。


あの時、あの質問で、初めて私は、自分の中にある感情に気付き、狼狽えた。


自分はー


彼に会ったら、きっと泣くだろうと。


つまり、まだ彼に気持ちが残っているという事実。



勇吾の事が、好きなんだという真実。


さよならと伝えた時、実際は追いかけてきてくれるんじゃないかと期待していた事。


格好良く、潔くなんかじゃなかった。

自分だって、計算高いあの女と同じ。

結局望んだ通りにはならず、想いだけが残り、今も淡い期待を抱いて迎えを待っている。

けど、迎えは来ないと、痛い程理解している。



そんな、長いこと放置していた感情を、たった少しの時間過ごしただけの人間から、たった一言で、思い知らされた。
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