レオニスの泪
黙ってただひたすら泣いていた訳じゃなく、『今まで』を支離滅裂な言葉で神成に伝えていった。


その端々には、未練が残る自分の想いや、神成に見抜かれたことへの戸惑い、男への不信感、そして、慧への罪悪感、自分以外頼れなかった痛み等がバラバラに散らばっていたと思う。

理解は出来なさそうな破片ばかりだったが、神成は、ただ黙って聞いてくれていた。


しゃくりあげる音が、静まるまで。



「ー良かった。祈さんが、ちゃんと泣けて。」



静寂が訪れた空気の中、神成が出す声は、余りに優しく、柔らかく。


残り涙を睫毛で弾いて、はっきりとした視界で神成を見れば、本当に安心した、という顔をしている。



「…す、すみません。」



私はと言えば、夢心地だったのに、現実に戻り、急激にこみ上げてきた羞恥心に顔が熱くなるのを感じた。



「謝らなくていいよ。僕はずっと君を泣かせたかったんだから。」



やんわりとした笑みを湛えながら、そう言われましても。




「泣くことは、心を洗うこと。そういう格言が外国にあるんだ。僕もそう思う。」


恥ずかしさから顔を伏せた私に、神成は続ける。



「そういう涙は、無駄じゃない。強くなる為に必要な涙だから。」
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