レオニスの泪
「…捨てることができないのなら、持っていればいいよ。」



今度は後ろめたさから、俯いた私は、弾かれたようにまた顔を上げた。


神成の表情はいつものポーカーフェイスに戻っていて、汲み取れるものといえば、柔らかい温かさ。



「いつか、もう手放してもいいかなと、思える時まで、持っていればいい。」



ーこのまま、この気持ちを持ち続けていいってこと?


長くなってしまった前髪が、目にかかり、手で払いのけながら、私は神成に問いかけるような視線を向けた。


「でも、、それじゃ、今までと変わりませんよね…?」


なのに。


「そんなことないよ。」


神成は、目を僅かに細めて、優しく首を振る。



「その気持ちの存在に気付けたなら、それでいいんだよ。自分と、真正面から向き合う事は、大変なこと。でも、それがひとつクリアできたんだから、次からはきっと変わる。」


「ーそうでしょうか…」



彼があまりにきっぱりと言い切るものだから、半信半疑ながらも、他に返す言葉が見つからなかった。






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