レオニスの泪
同情という言葉の響きが嫌いだった。


他人が自分と同じ気持ちになれる訳がないと。


わかる筈がないと。



なのに、神成の口から出てくるそれは、彼が醸し出している空気のように温かく聞こえる。

不思議なもので。

神成と話していると、知らず知らずにうちに張っていた緊張や力が抜けて、物事を静かな心で見つめられた。



ーあれ?



が、さっきまでのやりとりを反芻していた私は、はたと気付く。



「12時過ぎてる…さすがに夏も終わりに近付くと、夜は少し冷えるね。」


無言で考え込む私をよそに、神成は腕時計を見ながら、肩を縮めてみせた。


「……………」



「祈さん?」




家の前まであと僅か、という所で足を止めた私を、神成が不思議そうに振り返る。




「ーどうしたの「なんでハウスキーパーが必要なんですか」」




黒いアスファルトが、アパートから漏れた明かりで照らされている。



重なった言葉の意味する所を、神成は気付いただろうか。



泣き腫らし、毒が抜けたような私の中に、意地悪い感情はなく。


「ー先生、、、ひとりなんですか?」




今確信したことを、そのまま素直に相手に伝えているという感覚だった。







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