レオニスの泪
ー今日は余り混んでいなかった。
道が空いている事に、若干清々しさを感じながら、ウィンカーを出して、駐車場のゲートをくぐった。
この4月から勤務先になった大学病院には、中庭があって、そこが中々良い味を出している。
春には桜が咲き、夏には緑が映えて、秋には恐らく紅葉と秋桜が、冬がどうなるのかはまだ知らない。
「ー?」
いつものように、定位置に車を停めて、外に出ると、ふと、視線を感じ、辺りを見回す。
すると、同じように車から降りてきた男と目が合った。
時折見かけるシルバーのレクサス。
ー同業者じゃ、ないな。
ピシッとスーツを着こなした男に、何となく小さい会釈をして、歩き出す。
ー気のせいかな。
自分から視線を外したものの、僅かに、感じるものがあって、一度立ち止まって、振り返った。
が。
ーいない。
自分の方が先に出たと思っていたのだが、いつの間にか抜かされていたのだろうか。
ー誰だっけ。
思い出そうと一瞬努力してみるが、直ぐに諦めて、再び前を向いて歩き出す。
半年経っても、まだ慣れていない事が沢山あるというのに、まして、人の名前と顔なんか、一致する訳がない。