レオニスの泪
「次の方は女性で、新患です。紹介状をもらってきています。」
一人一人にじっくりと向き合う時間を取ってあげたいと願う余り、どうしても予約している患者を待たせしまいがちで。
「あ、そうなんだ。」
更に左利きのせいで、患者と顔を合わさないでメモに書き込むよりかは、向き合い、内容を大体記憶しようと努力すると、患者が去って行って次の患者を呼ぶまでの間で急いで机に向き合う自分がいる。
「ーそういえば、本当にこなくなられましたね。」
看護師とのやりとりは、必然的に片手間になってしまう。
「んー?誰が?」
さっきの男性の患者との会話の内容を手繰り寄せながら、なんとかパソコンに打ち込んでいる傍で、看護師の楠木が付け足すように発した言葉を拾った。
「ほら、かわいい感じの。でもちょっとボーイッシュな。やっぱり紹介状をもらってきていて…」
全然わからない。
それよりも、さっきの患者は、妻が何気なく言ってくれた一言で、少し気持ちが軽くなったと言っていたが、なんだっただろうか。
「そうそう、名前はー確か葉山さん。」
「ーーーああ…」
呼んでもいないのに、直ぐに、眼の裏にチラついた記憶。
葉山、祈、さん、ね。