レオニスの泪
「来ないって言って、本当に来なくなりましたね。」


「……そうだね、そんな人居たね。よくまだ覚えてたね。」


「結構インパクトあったので。」


楠木は、いつも僕の傍に居る訳ではない。

なんなら一人で診察する事の方が多い。

なのにどうしてか、居合わせてほしくない時に、偶然とは重なるもので。


「神成センセ、怒られてましたもんね、指輪。」

「そうだっけ。次の人入って貰うよ。」

「はぁい」

葉山祈のここでの最後の診察の際、楠木はちょうどその場にいてーというかドア一枚隔てた所に居てー僕を質問攻めにした彼女の言葉の端々を拾い集めていた。

ほじくり返されると非常に面倒だと判断した僕は、流れを断ち切る。

実際患者を待たせてしまっているのは事実だ。



ー『ー先生結婚してないんでしょ。どうして嘘の指輪してるんですか。』



スタッフのほとんどは、僕が妻帯者ではいないことを知っている。

だからコンパ等にもちょくちょく顔を出すように上から声を掛けられることもしばしば。

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