レオニスの泪
そんな気持ちはもうこれっぽっちも持ち合わせていないのに。


それでもそれは、あくまで裏方の話であって、表向き、僕は結婚しているという肩書きを提示した上で診察に当たっている。

面倒なことをするにはそれなりの理由があってのことだったが、製薬会社の森とかいう男は、僕がそういうフリをしていること自体、知らない。


そしてその森が行きつけの食堂が、葉山祈の職場だった、と。


パチパチパチと、パズルのピースがハマる。


森は口が軽そうだし、女好きだし、世間話ついでに自分のことを話したのかもしれない。

それで事実を知って疑念を抱いた葉山祈が、診察の際訊ねたのだろう。




しかしーー





ー『先生は何が嫌いで、何が好きなんですか?』



『どうしたら笑って、どういう時に泣くんですか。』


『どうやって恋をして、どうして結婚したんですか。』



彼女の質問は多くて、更に思いの外、心がギシギシと音を立てた。

< 232 / 533 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop