レオニスの泪
僕の表情に、困惑が広がったのが見えたのか、それとも元々そう切り返すつもりだったのか。男はー


「ー葉山、と言えば、分かりますか?」


予想もしていなかった名前を出した。


ーこの人、あれか。


直ぐに、頭に浮かんだのは、先日の葉山祈の泣きじゃくった顔だった。


「…あれと、どういった関係なんですか?先生。」


相手はどうやら、僕と葉山祈関係を疑っているらしい。
それを使って、彼女を追い込んだのかもしれない。


ーどこかで見た顔だと思っていたら。


漸く思い出した。


いつか、中庭でー

病院の非常階段を降りていく途中、建物の間と間から、偶然スーツ姿の男と葉山祈が話しているのが見えた時があった。

時折、ふらつく彼女は、スーツの男がいなくなってから、気が抜けたように、ベンチに座った。僕は直ぐに側へと駆けつけ、意識を失った彼女を抱えた。

どうしようかと迷ったものの、息子を迎えに行く必要がある事を考えると時間があまり無い。


それで、車にとりあえず運んでから、薬剤師に指示して、薬を準備してもらったのだったが。



その時、この男と、すれ違ったような気がする。
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