レオニスの泪
べったりとした話し方をする、女で。

やたら纏わり付いてきて。

レストランで家に行かせろとしきりにせがむ為に、煩くて、無下にもできず、とりあえず頷いて、帰り道適当に理由をつけて逃げ切ろうと考えていた矢先。


ー『神成先生…心の傷は、もう癒えました?』



近所の公園を最終地点に選んでいて良かったと思った。

昔の事を人づてに聞いたのか、その傷を自分が癒すとまで言ってのけた女に、ぎりぎりの礼儀も飛んで消えた。


ー『やっぱり無理。あなたとは無理です。院長にもそう伝えてください。』


覚えがないが、研修医だった頃、何度か顔を合わせた事があったらしい女は、僕の態度が急変したことに、あっという間に顔色を変えー



パァン

あげた手を、思い切り下ろした。

いつのメロドラマか、と訊きたくなる展開を見せようとしたようだが、その振り下ろされた掌を、僕は腕で受け止めた。








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