レオニスの泪


なんとなく女に自分の家の方角を知られたくなくて、僕はとりあえず、マンションとは反対の方角に歩き、暫くして公園に戻った。




僕は、仕事が早く終わりそうな日には大抵、高校の時の友人が経営する居酒屋に顔を出して帰る。


大学病院からはタクシーで店に行くが、店から自宅までは歩いて帰る。

そうすることで、頭の中を整理するーいわば、自分の為の時間を、取り分けている。

桜の木がたくさん植えられている、河元第二公園は、その通り道となっていた。


女の姿がないことに、安堵して、反対側の出口付近のベンチを過ぎった、辺りで。



「ーーー」

ちょうど街灯に照らされる位置に、ぱたりと落とされているハンカチーいや、タオルに目が引きつけられた。

見覚えがあった。

少し大きめの、ハンカチとは言えないタオル。

絵柄は幼稚で、いかにも子供が好きそうなキャラクター。それには、どこかに引っ掛けるような、紐が付いている。


どういう用途なんだろうと、つい先日思った。


そう、それはー



葉山祈の初めての診察の時。
< 250 / 533 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop