レオニスの泪
僕じゃない、とは言わなかった。
嘘は吐いていない。
ただ、声だけで人を判断しないように、と忠告しただけ。
かと言って、ありのままの事実を伝えたら、葉山祈は、今以上に僕を信頼してくれなくなってしまう。
ただでさえ、質問に答えてあげられなかったのだ。
いや、答えられる質問がほとんどなかったと言う方が正しい。
精神科医は、あくまで聴き手であって、話し手ではない。
そもそも患者は聴いてもらいたい人達ばかりなのだ。
だから、例え訊かれても、自分のプライベートに関してはのらりくらりとかわすようにしている。
それは、自分の身の安全の為でもある。
線は引かないといけない。
患者とはー。
『先生の好きなものって、なんですか。』
『先生は何が嫌いで、何が好きなんですか?』
『どうしたら笑って、どういう時に泣くんですか。』
『どうやって恋をして、どうして結婚したんですか。』
『なんで先生は、先生になったんですか。』