レオニスの泪
季節は巡って、秋になった頃。
「アカのことさぁ、どう思う?」
「…っゲホ」
久々に岩崎と呑みに行った先で、突然訊かれた僕は思わずむせた。
「うわ、大丈夫か?」
そう言う割りに、岩崎の表情には心配の欠片も出ていない。
むしろしたり顔で笑ってる。
「ビール呑んだ瞬間とか、タチ悪くない?」
冷えたおしぼりを口に当てて涙目で訴えても、わざとやった岩崎に効くはずもなく。
「で、どうなん?」
座敷に胡座をかいて、奴はグイとジョッキを呷った。
「…どうも何も…ほとんど接点ないし。」
「…ふーん。でもアカはお前のこと気に入ってるみたいだよな。」
「ーどうだか。本当に接点ないんだって。」
「でも珍しいんだよ、アカが懐くの。」
言いながら、岩崎は、テーブルに置かれた突き出しをつつく。
「どういうこと?」
それにつられて僕も箸を手に持った。
「アカはさ、自分からは人に話したりしないんだよね。特に男とは。当たり障りないことは話すし、避けるとまでは言わないけど…なんつーの、猫みたいな感じ。気まぐれ。」
「僕とだってほとんど話してないよ。」
「でもあれだけ広い構内で、何度か声掛けられてんだろ?いつもいつも偶然って訳じゃないと思うけど?」
まぁ確かに、それはいつも不思議に思っていたけれど。
「たまたま、だよ」
忙しすぎる日々。国家試験も控えているというのに、それ以外のことは、僕にとって煩わしかった。