レオニスの泪
それから。

いつ、と決めなくても、なんとなく僕がそのベンチに腰掛けて読書している時には、朱李がやってきて、他愛もない話をしていった。

時折僕の相槌が入るようになると、朱李は嬉しそうに笑った。


雪が降るようになれば、場所は図書館へ移された。

卒業を控え、国試を控えた僕は、ほぼ顔を出さない日ばかり。会わなければ思い出す回数も減って、勉強に没頭した。

ただ。

ふとしたタイミングで空を見上げるとーそうした時間が取れるのは大抵夜しかなかったー朱李から教わった星が瞬くのを、どうしてか見つける事ができて、彼女の声が蘇える。


ーどうしてるかな。


連絡先すら、教え合わない。

ただ一回、一緒に呑んで、一緒に帰った。

それから、時々会っては少しの言葉を交わす。


知り合いではあるけど、友人と言う程ではない。

それだけの関係なのに。



どうしてか、流れていく月日の中で、漸くひと息つける時間。


思い出すのは、彼女のことばかりだった。



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